Home > 事業案内 > 救急医療事業部 > 日本精神科救急学会 発表要旨 > H21(2009)年度日本精神科救急学会発表要旨
羽藤邦利 西村由紀 (特定非営利活動法人メンタルケア協議会)
福島秀樹 (東京都福祉保健局障害者施策推進部精神保健・医療課)
平成14年9月に東京都の夜間休日精神科救急医療体制が一新し、精神科救急医療情報センターが設置され、輪番制の初期・二次・身体合併症当番病院が準備されるようになった。平成21年3月までの6年半の間に、当番医療機関を利用することになったケースは、初期救急647件、二次救急2154件、身体合併症151件、合計2952件であった。
2952件のうち、キャンセルとなって当番医療機関を受診しなかったケースは350件あった。二次救急または身体合併入院予定で受診したが、外来で帰ったケースはそれぞれ201件と9件であった。これらは、情報センターが電話で判断したよりも実際は軽症であったケースが多い。逆に、初期救急で受診したが、入院となったケースは51件ある。これらの多くは、症状的には入院が必要かもしれないことを予めわかっていたが、保護者の迷いなどがあって外来前提で受診することを受け入れ医療機関にも伝えられており、診察場面の説得で入院となったケースである。初期・二次救急で受診したが、24条通報に切り替えたケースや身体救急や身体合併症を利用することになったケースは19件であった。情報センターにおける電話での聞き取りや判断には限界があり、迷う場合にはオーバートリアージをすることになっているが、実践されていると言える。
当番医療機関を利用したケースの相談者は、家族からが最も多く、半数近くに上った。情報センターにかかってきた電話の半数を占める本人からのケースは、当番医療機関を利用したケースの中の6%に過ぎなかった。その多くは、薬切れなどによる初期救急利用である。二次救急の利用にあたっては、医療保護入院が前提で家族の同伴が必要であるため、家族から電話をしてもらうように伝えている。逆に言うと保護者がいなければ二次救急を利用できず、平成20年度の相談ケースのうち200ケース以上が、保護者がいないために当番医療機関への入院を検討できなかった。
ケースの発生地は、自宅が半数を占めるが、12%が警察署、7%が救急車の中、10%が一般科外来であり、多くの関係者を巻き込んでいるケースが少なくない。
精神科通院歴を見ると、「入院歴あり」は38%、「入院歴はないが通院歴あり」は28%、「通院歴なし」の者が18%であった。はっきりとした通院歴が確認できない「通院歴不明」16%のうちの多くも通院歴がないことが予想できるため、全体の1/4~1/3は、精神科受診歴の無いケースであると言える。当番医療機関へ入院となったケースの52%は、初めての精神科入院であった。入院歴のない者の通院先は診療所が多いこともあり、夜間休日に初めて精神科入院が必要な状態になった場合、相談できる病院がないために情報センターを利用せざるを得ないことが想像できる。
二次救急で受診したケースの約半数は統合失調症、次いで気分障害が2割であるが、初期救急は、統合失調症、気分障害、パニック・強迫・神経症がそれぞれ約25%ずつであり、病名構成が大きく異なることがわかった。
平成17年10月の厚生労働省患者調査によると、東京都内の精神障害者の推計数は約33.4万人である。情報センターの電話件数は年間に1.2万件であり、複数利用者や通院歴のない人も利用していることを考慮すると、利用率は3%に満たないであろう。一方、平成18年7月~平成19年6月までに東京都で入院した患者数は、35,081人で、情報センター経由で1年間に入院する患者数の平均は286人はその1%に満たない。夜間休日に精神症状や合併症で具合が悪くなったケースの多くは情報センターに電話せず、当番医療機関を利用してないのではないかと予想される。当番医療機関を利用したケースの分析から、輪番制当番医療機関の役割や情報センターに求められる対応を明らかにしたい。