Home > 事業案内 > 救急医療事業部 > 日本精神科救急学会 発表要旨 > H20(2008)年度日本精神科救急学会発表要旨
羽藤邦利 西村由紀 山本健一 (特定非営利活動法人メンタルケア協議会)
メンタルケア協議会は、平成19年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業で「地域で生活する精神障害者の緊急対応ニーズの実態調査」を実施し、精神科救急を利用する側である当事者、家族、精神障害者関連施設の救急対応のニーズについて全国10都道府県を対象に調査した。ニーズ調査には、当事者・家族はそれぞれ2000余りの回答があり、施設からは約1100の回答を得られた。
一方、メンタルケア協議会では、平成14年度から東京都精神科救急医療情報センターを東京都より受託し運営してきている。
アンケート調査と情報センターの経験を踏まえ、精神科救急を利用する側のニーズを考察した。
ニーズ調査の結果で驚いたことは、「1年間で最も困った緊急事態のエピソード」を書いてもらったが、公的救急システムを利用したのはわずかしか無かったことである。比較的救急医療を要する内容が多かった施設調査でも、公的救急を利用して解決したのは7%であった。
緊急時にどのような解決方法を取ったか、あるいは望んでいるかは、次のようであった。
電話相談を希望する回答が最も多かった。救急医療を必要とする状態になる前に、心理的な不安定さなど兆候が現れる場合が多い。その段階で相談し、対処したいと考えているということであろう。電話相談先としては、普段から顔を合わせることのできるかかりつけの病院や福祉施設の職員などが望まれていた。24時間やっているところ、服薬など医療的な相談を受けられるとこのニーズも高かった。
受診する場合は身近な医療機関を受診したいという回答が多かった。緊急事態は深夜や休日に集中しているのではなく、平日日中や準夜帯にも同じ程度に発生していた。できるだけ生活場所から近いところで、かかりつけや顔見知りの医師に診てもらいたいと希望していた。しかし、かかりつけや近くの医療機関に緊急受診をお願いしても、予約がないと受診できない、主治医が不在、ベッドが空いていない、身体合併を受けられる医療機関がない、と断られることが多い。すぐに受け入れできるところがないために、結局深夜になっても解決できないでいる場合が少なくない。主治医やかかりつけ以外の医療機関が受け入れを渋る理由の一つは、病歴等の情報が少ないことであった。
行政救急は限られた医療機関でしか実施されていないため、多くの場合は遠方で、初めてかかる医師やスタッフに対応してもらうことになる。行政救急を利用することを躊躇う人が多かった。やむを得ず行政救急を利用しようとしても、なかなか受け入れてもらえないという印象を持たれていた。措置入院に該当しない場合は、搬送協力が得られない、保護者同伴が必須、激しい症状がないと受け入れてもらえない、身体合併症対応が少ない、等の理由で利用のハードルは高い。応急入院や身体合併症対応など、確実に準備されることが望まれる。
心臓や腎疾患など、あきらかに身体救急が必要であるにもかかわらず、身体科医療機関に受け入れてもらえないことが頻繁にあることがわかった。理由としては、一般科医師の精神症状への対応能力が低いこと、精神科との連携が少ないこと、精神障害者への偏見があること、病歴等の情報がないと判断ができないことなどが予測された。生命に関わる問題なので、解決が望まれる。