Home > 事業案内 > 救急医療事業部 > 日本精神科救急学会 発表要旨 > H18(2006)年度日本精神科救急学会発表要旨
羽藤邦利 西村由紀 杉山克好 (特定非営利活動法人メンタルケア協議会)
益冨一郎 小川隆 (東京都健康福祉局障害福祉部精神保健福祉課)
1998年以降、我が国の自殺者数は3万人前後で推移している。交通事故による死者数の約4倍である。自殺防止が日本社会の重大な課題としてとらえられ、本年6月15日に自殺対策基本法が成立したところである。東京都の精神科ソフト救急の中で、自殺防止を考慮した対応が必要となるケースがどのくらいあるのか、それらはどのような事例かを明らかにしようと試みた。
東京都精神科救急医療情報センターにこれまで寄せられた相談内容を分析し、自殺企図や希死念慮、自傷行為を訴えたケースを抽出した。東京都精神科救急医療情報センターの相談件数は、平成14年度の下半期で5365件、平成15年度1年間で10832件、平成16年度は11328件、平成17年度は12072件と、徐々に相談件数が増えている。そのうち、自傷、希死念慮、自殺企図があった事例は年間1000件前後に昇り、全体の7.2%~11.7%であった。この割合も最近上昇傾向にある。それらの事例について、疾患名、性別、年齢などの構成や、電話のかかってくる時間帯、相談者と対象者の関係などについて分析した。さらに、症状の詳細や、情報センターでどのような対応がとられたか、対応の上でどのような難しさがあったのかについて調査を行った。
東京都精神科救急医療情報センターを経由するソフト救急では、24条通報による対応が相応しいような明らかな自傷他害行為のあるケースは受けることが出来ない。目を離せば即実行されることが予測されるような切迫した希死念慮がある場合には、警察に相談することをすすめている。また、身体救急優先の原則で、外傷の処置や胃洗浄・点滴処置などを必要とする場合には、まず外科や内科の救急で対応してもらうことをすすめている。身体救急を勧める際に、身体処置が終わった後にも希死念慮が強い場合には、二次救急や初期救急を検討することができることを伝えているが、その夜のうちに相談が来ることはほとんどない。精神症状が激しくて身体処置が難しい場合には、身体合併症を検討することもある。
東京都精神科救急医療情報センターの相談ケースの分析を通じて、自殺に関連するケースの実態を把握し、自殺防止の観点から情報センターにおける対応について工夫できることはないか検討をしていきたい。また、東京都精神科救急医療情報センターで得られた成果が、わが国の自殺予防対策を立てる上で参考になればと考える。